現象
物理現象としての孤立波は、1834年に J・スコット・ラッセル によって初めて報告された。ラッセルはエジンバラ郊外の運河で馬にひかれていたボートが急にとまったとき、船首に水の高まりができ、そこから孤立波が生じ、時速8–9マイル(時速13–14キロメートル程度)の速度でほとんど波形を変えずに伝播していくのを偶然目撃し、1マイル以上馬で追跡しながら観察した。その後、彼は水槽をつくり、波高の大きい波ほど、伝播速度は速いなどの孤立波の性質を報告している。
理論の発展
ソリトンが現れる系をソリトン系といい、ソリトン系の従う発展方程式をソリトン方程式という。すなわち、ソリトン方程式はソリトン解をもつ。ソリトン方程式の代表的なものに、KdV方程式、KP方程式、サインゴルドン (sine-Gordon) 方程式、非線型Schrödinger方程式、戸田格子方程式、箱玉系のセルオートマトンなどがある。特にKdV方程式はソリトン研究において常に端緒を開く役割を果たしてきた。ソリトン研究の初期段階においては新たなソリトン方程式が次々と発見され、発見者の名前が付けられていったが、1981年の佐藤理論の完成により、ソリトン方程式は無限に存在することが示されたのでそのようなこともなくなった。ソリトン方程式を解く手法には 逆散乱法 ( 英語版 )、広田の方法(双線形化法)などがある。ソリトンは、流体力学分野だけでなく、物性物理、微分幾何学、場の量子論など多方面で応用されている。
ソリトン方程式
以下、主なソリトン方程式を挙げる。但し、位置座標を x, y, 時間座標を t とした。また、方程式の係数のとり方はいくつか存在する。
- KdV方程式

- 変形KdV方程式

- KP方程式 ( 英語版 )

- サインゴルドン方程式 ( 英語版 )

- 非線形シュレディンガー方程式

- ブジネ方程式

- ベンジャミン–オノ方程式

- 戸田格子 ( 英語版 )方程式

現象
- 浅い水路を進むボートの舳先から発生する波
- 津波
- 木星の巨大赤斑(孤立Rossby波)
- ポリアセチレン中のソリトン ---白川英樹のノーベル化学賞と関連
- プラズマ中の非線形波動
- 非線形光学
- はしご型LC回路
- 羊の群れ
光ソリトン
詳細は「光ソリトン」を参照
1973年に長谷川晃博士によって発見された、光ファイバーの中を伝播する安定した光パルス。 ソリトン伝送システム を導入すれば、既存の光ファイバーを用いた通信システムの伝送容量を、1千倍程度アップグレードできるとされる。次世代の超高速通信の担い手として最も期待され、2010年10月現在、すでに検証・実験段階を終了して開発段階に入っている。
生物学におけるソリトン
細胞性粘菌の一種であるキイロタマホコリカビのある変異株が示す波状の多細胞体運動が示す挙動がソリトンの性質を備えていることが、2013年に桑山秀一博士らによって報告された。細胞性粘菌の野生株は飢餓状態において走化性運動により集合し、ナメクジ状の多細胞体を経て子実体形成を行うが、ソリトン波様の多細胞体運動を示す変異株は走化性を欠き、子実体形成を行うことができず、波模様の塊を形成する。この波模様の塊は形を崩さずに一定の速度で運動し、衝突後も形を崩すことなく互いに通り抜けてしまう。
脚注
注
- ^ Korteweg–de Vries
- ^ Kadomtsev–Petviashvili
出典
- ^ T. Maxworthy and L. G. Redekopp, “A solitary wave theory of the Great Red Spot and other observed features of the Jovian atmosphere,” Icarus, 29, pp. 261–271 (1979) doi: 10.1016/0019-1035(76)90054-3
- ^ W. P. Su, J. R. Schrieffer, and A. J. Heeger, “Solitons in Polyacetylene,” Phys. Rev. Lett., 42, pp. 1698–1701 (1979) doi: 10.1103/PhysRevLett.42.1698
- ^ H. Izeki, R. J. Taylor, and D. B. Baker, “Formation and Interaction of Ion-Acoustic Solitons,” Phys. Rev. Lett., 25, pp. 11–14 (1970) doi: 10.1103/PhysRevLett.25.11
- ^ R. Hirota and K.Suzuki, “Studies on lattice solitons by using electrical networks,” J. Phys. Soc. Japan, 28, pp. 1366-1367 (1970) doi: 10.1143/JPSJ.28.1366
- ^ M. Azaïs, S. Blanco, R. Bon, R. Fournier, M. Pillot and J. Gautrais, arXiv: 1712.05774 (2017)
- ^ H. Kuwayama and S. Ishida, “Biological Soliton in Multicellular Movement,” Scientific Reports, 3, article number 2272 (2013) doi: 10.1038/srep02272